椎名太平記  峠道


新川郡を通る道は、浜街道と山街道があった。

浜街道は船便があり海の上の道であった。

人々は主として浜街道を利用した。

舟の宿として小津がある。

しかし波が荒い時は脇街道の山街道を辿った。

山街道の宿場は松倉の城下であった。

「道中のご無事を祈っております。」

屋敷の門前には、妻のゆいを初め、屋敷の奉公人たちが彦三郎一行を見送る。

「一月ばかりじゃ。後を頼むぞ。」

3月初旬。

彦三郎は越後へ旅立った。

しかし越中は雪深い。

城下は春でも山には雪が残っている。

彦三郎は、愛用の太刀を腰に刺し、駄馬の尻をポンと叩いた。

「出立じゃ」

馬八頭と手代達十名ばかりの一行は山街道を東に進んだ。

東城から福平を過ぎ、田籾を越えて一休みした。

切り株に腰をおろし、来た方向を振り返って見た。

松倉は遥か彼方であった。